プルートノンプラネット

 

忘れられた。

どこにも、もう、居場所はない。

いや、あの小さな惑星に忘れられたくらいで、どうということもないのだ。

所詮、一惑星の戯言だ。

気にしない、と言い聞かせた。

こうしているうちに、何百年経ったのだろう。

時の流れなど、関係のないことだ。

もう、何億年も生きているのだから。

もう滅んでしまっても、別にどうということもなくて。

誰も悲しまないだろう。

ただひとつ、心残りがある。

あの小さな惑星から一度だけやってきた、

小さな命の子だ。

忘れられない。

何にも執着したことのないこの星が、この地全てで覚えている。

星に合わせて変わる体温は、少し不安になる優しい儚さだった。

ゆっくりと閉じて再び開く瞼は、純粋な宇宙より美しかった。

また、出会えないだろうか。

もしそれが叶わないなら、せめてこの記憶が、

何処にもいかないようにつなぎ留めたい。

忘れないように、何度でも。

枯れてしまったこの星の女神だった。

そう願ううちに、君は再びここへ来た。

何にも代えられない喜びと、切なさ。

君をあの星へは還さないよ。

ここへ来たなら、もう逃げられないってわかっていたはずだろう。

良いだろう?

良いと言っておくれ。

明日が来るにはまだ早すぎるから。

過ぎた足跡を見ようよ。

もう忘れ去られるのは、御免なんだ。

君に忘れ去られるのは、特に御免なのさ。

君の肌が、星の空気で焼けてしまわないかが心配だ。

君のこと、何も知らない。

知らない事ばかりだから、知りたくなってしまうんだろう。

逃げられない辛いものを抱えてる。だから、愛せる。

黒い海に飲み込まれる方がよっぽど楽なのさ。

思い悩むことなんかないのだよ。

一緒に宇宙を見よう。

何憶光年も離れた星を見よう。

五億に光り輝く星を、君へあげよう。

僕には、きっとそれしかできないから。

許しておくれ。シェイプシフター。

決して逃れられないから。

愛おしい我が妻よ。

君を想った百年の日々。

待ち続けたあの時間。

君に再び出会えた喜び。

すべて初めて味わうんだ。

ウエディングリングは、赤い太陽の欠片にしよう。

永遠にふたりで、無限の宇宙を漂おう。

僕は君を忘れない。

だから君も、僕を忘れないでおくれ。

愛おしい我が妻よ。

この砂漠の色を君にあげるから。

すべてすべて、君にあげるから。

その銀色の服の中で僕の愛を育んでくれないか。

きっと、明日が素晴らしいものになるように。

🌌

薔薇と脳髄の向こう

感嘆と共感と畏怖。共に彼岸へ向かおう。