思慮


「ねえウィル、どうして探してくれたの?」

「別に。シャワーが浴びたかっただけ」

出来るだけ本心は晒したくない。そう思えば遠回しな言い方でお茶を濁した。

バスローブから水が滴る。安物の生地だと、あまり水を吸わないのだ。

ウィリアムの傍に寄り、彼の機嫌を伺いながら薄く笑みを浮かべる。身体から立ち上る湯気と火照りを共有する。石鹸のにおいがした。

「女の子と一緒なんじゃなかったの?」

「一緒だよ。でも、先に寝たからシャワー浴びられなかった」

「そうなんだ。じゃあ、何もできなかったってわけ?」

「そういうこと」

「ねえウィル、じゃあ僕としちゃおうよ」

「何言ってるんだ?良いから早く寝ろよ」

予想はしていたが、まさかこんなあからさまに言ってくるとは思わず返答に困る。

そういう経験が無いわけではないが、男相手にはしたことが無いし、する気もない。半ば呆れたまま濡れた制服のポケットを探るが、出てきた煙草は濡れて使い物にならなそうだった。

煙草が無いと手持ち無沙汰になる。できればルドルフとは離れたいが、寝ているヴィンセントの部屋へ行って眠るのもあまりしたくない。

自分でした行動とはいえ、なんとも煮え切らない結果になってしまったなと思う。

「ウィル、一緒に寝よう」

「やだね。俺は床で寝る」

「風邪ひいちゃうよ」

「ベッドで寝たらお前何かするだろう」

「しないよ。そんな悪趣味なこと、しない」

「信用できないな」

片眉あげてルドルフをにらみつけると、また癖でポケットを探ってしまった。

「嫌なことしないよ、ウィルに嫌われたくないもの」

しおらし気な表情を作ってルドルフが言うと、ウィリアムは何だかめんどくさくなった。

言い合うのも不毛な気になってくる。できればベッドで眠れるにこしたことはない。

半ば自棄になり嫌々ながらもベッドへ横たわり、ルドルフに背を向ける。

彼もまた、ウィリアムに背を向けて横になった。


今夜中に襲ってしまおうか、などとルドルフは考えていた。思春期の男子なんて快感に勝てるわけが無いと思っているからだ。押してしまえば、身を任せたまま彼と一つになれるだろうか。

背中を向けたまま、悶々とルドルフは思考を巡らせていた。

無理やり唇を奪ってしまえばいい?首筋にキスすればいい?彼に跨がってしまえばいい?

一通り考え抜いたが、すべてNOだった。

ここは大人しくして、彼の僕に対する警戒心を緩めたほうが得策かもしれない。彼の中で、今僕は誰とでもセックスするやつになってる。だから、それを和らげたほうが良い。

小さくため息をつくと、ウィリアムからは小さな寝息が聞こえてきた。彼の眠る姿は想像できなかったせいもあり、不思議な感覚になる。

今すぐ抱きしめて触れ合いたいという欲求を無理やりねじ伏せてルドルフも目を閉じた。

蝋燭の炎が、消されないまま揺らめいていた。

狭いベッドの中で、唯一触れ合ったのは背中だけだった。

薔薇と脳髄の向こう

感嘆と共感と畏怖。共に彼岸へ向かおう。