滴
夜の糸が垂れて僕の脳天から身体の中へ染み渡るように入っていく。細胞が夜に満たされていくのがわかる。
水というのか。
はたまたまた別の物質と言おうか。
目には見えないし触れる訳でもないのだけれど、夜は確実にそこにあって、僕に中へと染み込んでくる。
ゆっくりと時間をかけて、夕方じゃなくなったその時から夜は一晩かけて僕の中を満たす。
朝になったら、すぐに冷えて無くなってしまうというのにどうして毎晩毎晩大変な思いをして僕へ夜を齎そうとするのだろう
心地は良い。
結局、ひとつになってしまうのだ。
瞳を閉じると目は一筋の線となって緩やかな曲線の中輪郭の方へと伸びる。
横たわると密接した線と線の境目がどろりと溶けて無くなってしまうような気がする。
そうして、夜で満たされて居る僕は、昼間の比にならないくらいの質量になり、深く深くこの星の中へ沈んでいく。闇に溶ける。
鼓膜を震わす音というのも一切なく、まるで世界が終焉を迎えたかのような錯覚にさえなる。
夜というのは孤独であり、貪欲なのだ。
自分自身がまるでどろどろと溶けて無くなってしまうのかもしれない。
溶けかけた脳髄で僕はよくそんなことを思う。
このまま何者でもないまま静かに夜に取り込まれて、夜の一部になってしまいたい。
夜の濃密な闇は、見えない隙間から入って脳の奥深くにまで侵入してくるのだ。
冬の夜は特にそれが顕著だ。
凍てつく寒さの中で、夜だけが熱を帯びたように入ってくる。
きっと逃れられはしないんだろう。
線になった目を開けることはできない。
それは夜が許さないと訪れない世界なのだ。
このまま眠ったらきっと僕は星のものになって小さな事なんてどうでも良くなっちゃうんだ。
そう思うと、わるくないのかもしれない。
こうして時々夜に侵される。
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