鬼胎

はじめに

 貴方が「怖い」と思うことは何だろうか。

 「怖い」「恐ろしい」「畏怖」これらの感覚は非常に本能的であるといえる。他の動物にも備わっていることは、きっと誰しも知っているだろう。私はこの「恐怖」に関する感情というのは生きていく上で欠かせないものだと考えている。そんな「恐怖」という感情、そしてそこから生まれる様々な感情すべてが愛おしい。本書では、人間のそんな本能的で、愛すべき感情を増長すべく、様々な世界を描いている。誰かがどこかで体験しているかもしれないこと、貴方がこれから体験するかもしれないこと、そして、誰かの脳内。そんな、過去も未来も現在も飛び越えた恐ろしさを感じて貰えれば嬉しい。

 笑いを誘うようなものから、ぞっと背筋が寒くなるようなものまで収録しているので、読者の皆さんが感じる恐怖に当て嵌まるものがあるはずだ。恐怖とは、人の経験の数だけ生まれる。昔にあった怖いこと、本を読んで怖いと思ったこと、経験から想像まで、幅広いところに恐怖というものは潜んでいる。

 嫌われがちなこの恐怖という感情は、きちんと向き合っていくと自分の中の何かに出会える。恐怖の中にも喜びが潜んでいるかもしれない。恐怖と向き合い、身近に感じて貰えるならば幸いだ。

夜眠るときに、布団の中で皆さんの背筋がゾッと寒くなりますように。



2017年1月22日発売「鬼胎」より

薔薇と脳髄の向こう

感嘆と共感と畏怖。共に彼岸へ向かおう。